プロジェクト紹介
本プロジェクトでは、実用上任意の数の量子コンピュータ同士を相互接続して 任意の規模の量子計算を実現できるよう、 スケーラブルな量子コンピュータのネットワークシステムを研究開発します。実験室で1個〜数個の量子コンピュータを接続するだけでなく、 数百〜数千個の量子コンピュータを同時接続しても情報処理し続けることが 可能なアーキテクチャやプロトコルが必要になります。
本プロジェクトではこの目標の達成のために アーキテクチャ・光技術・量子メモリ・分散型量子アプリケーション、そしてこれらをシステムに統合する という5つの課題を設定し、 最終的なプロジェクト全体のプロダクトとして以下にあるような 星形4ノードのネットワークアーキテクチャを作り上げて動作検証を行います。 この星形4ノードアーキテクチャというのが将来的に 任意の量子コンピュータネットワークを形成する際に基本単位となる重要な構造です。
研究課題
研究開発項目1:強靭で大規模な通信網を実現する新しいネットワークアーキテクチャ・プロトコルの開発
量子システムと古典システムの複合システムに対して、複雑なネットワークアーキテクチャの課題と、
量子エラーや光子喪失に代表される量子特有の課題を共に克服するための
「大規模」量子通信アーキテクチャを開発します。ネットワークの信頼性・安定性(耐障害性)・高パフォーマンス性・メンテナンス性・
スケーラビリティ、相互接続性、互換性、実装の容易さ、そしてアーキテクチャ上での
分散アプリケーションやライブラリ開発の容易さが重要です。
研究課題
- 量子通信アーキテクチャ・プロトコルに関する研究開発
- 古典システム・プロトコル実装
- モジュール間インターフェースの研究開発
- 1000台規模のデータセンター内ネットワークを想定したプロトコル・オペレーション手法の研究開発
- スケーラブルな量子通信ネットワーク・エッジアーキテクチャの研究開発
- 短期的な分散量子システム向けのリソース認識プロトコル
- 超伝導量子コンピュータのスケーラブルな光通信アーキテクチャ
研究開発項目2:量子光の精緻な制御を可能にする量子光通信技術
任意のノード間を動的に選び量子もつれを生成する多ノード光量子ネットワーク技術を
確立し、この物理ネットワークの管理システムを含めた統合ネットワークシステムの動作実証することを目指します。このシステムには以下の性能や機能が要求されます。
- 将来的な拡張性のために、末端に様々な物理系からなる量子コンピュータシステムを、 また中継ノードに量子メモリが搭載できること
- 高効率な量子もつれ配送および接続するノードのルーティング機能
- 従来の世界的取組の主流である2者間ネットワーク中継の単なる拡張ではなく、 複数の種類の量子もつれを利用できる全く新しい配送方式・制御機能
研究課題
- 量子光通信の高性能化技術の開発
- 損失に強い量子光通信技術の研究開発
- 量子光通信の位相同期・安定化技術の開発
- 希土類量子メモリと量子光通信との光インターフェースの開発
- スケーラブルな量子通信ネットワーク・エッジアーキテクチャの研究開発
研究開発項目3:量子信号の中継・変換を実現する量子メモリ・量子中継
量子もつれ配送や量子中継・ルーティング等の中核技術として用いる
量子メモリの研究開発に取り組見ます。
重要な観点として、メモリ保存・再生効率、メモリ(コヒーレンス)時間、多重性、そして純粋化による低減忠実度の回復があります。
通信向けの量子メモリは多重化できることが望ましく、
ルーティングモジュールなどの共有コンポーネントに搭載されるもつれ光源には
バッファリング可能で高効率なもつれ生成が望ましいなど、
そのノードやモジュールの役割により必要な仕様や機能が異なるため、
それに応えられるように希土類量子メモリと、集団原子のスピン波によるもつれ光源を開発し、
また超伝導量子ビットが集積化される時代に向けて量子メカニクスメモリを開発します。
研究課題
- 量子中継ネットワークに向けた多重化量子メモリ開発
- 中継用量子メモリ光源安定化技術の開発
- スピン波によるもつれ光子発生の確実性向上に関する研究開発
- 量子メカニカルメモリの開発
研究開発項目4:量子情報の分散環境が可能とする分散量子アプリケーション
拡張性を担保する量⼦ネットワークでは、厳密な通信プロトコルが設定されている
場合が多くそれが制約になっています。まず本プロジェクトにおいては2025年に実現されるテストベッド上で実装可能な様々な分散型量⼦アプリを設計します。また同時に、利⽤⽬的から出発しアプリケーションを設計し、どの程度の性能をもった量⼦ネットワークが必要になるかの⾒積りもします。
研究課題
- 分散処理環境における量⼦性とその応⽤研究
- 分散処理プロトコルとユースケースの研究開発
- 分散環境を用いた量子アプリケーションの理論提案
研究開発項目5:技術を統合・実証していくテストベッド・統合実装
上記までの各研究開発項目で開発したパーツ・アルゴリズム・仕組みが、
システムとして統合したときに適切な挙動・性能を発揮するかの検証およびその検証システム自体の開発を行います。この検証を通して、量子ネットワークの「全体像」を把握することができます。また、検証した結果発見された課題や改善点を各項目にフィードバックすることで、各項目の研究開発をさらに加速し押し上げます。
研究課題
- 光技術による量子通信ネットワークの統合的実証
- 量子ネットワークシステム実証実験のためのイオントラップ量子ノードの開発